東京地方裁判所 平成11年(ワ)19566号 判決 1999年11月24日
原告(選定当事者) X
選定者 別紙目録のとおり
右訴訟代理人弁護士 高橋勝
右同 岡田泰亮
被告 株式会社日本興業銀行
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 芦刈伸幸
右同 星川勇二
右同 緒方義行
主文
一 原告(選定当事者)の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告(選定当事者)の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 東京地方裁判所平成一一年(リ)第四五五一号債権配当事件につき、平成一一年八月三一日作成された配当表のうち、被告への配当額が四二四二万三九九〇円とあるのを零円に、選定者への配当額が別紙配当表各<省略>金額とあるのを別紙変更後の配当表各<省略>金額にそれぞれ変更する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
第二事案の概要
一 前提となる事実
1 被告は、株式会社赤倉観光ホテル(以下「赤倉観光ホテル」という。)に対する平成一〇年五月二九日付け貸付残元本九七一二万八八二八円及びその遅延損害金三七六万二四〇二円、合計一億〇〇八九万一二三〇円を執行債権として赤倉観光ホテルが新井信用金庫に対して有する八一一六万三一〇〇円の預金債権について、東京地方裁判所に対し、仮差押えの申立てをし(同庁平成一一年(ヨ)第一二〇七号)、同裁判所から同年三月一一日債権仮差押えが発令され、同月一二日第三債務者である新井信用金庫に対し、同命令が送達された。
2 原告は、原告及び原告を当事者に選定した別紙選定者目録<省略>の選定者の赤倉観光ホテルに対する未払給料(平成一一年二月一六日から同年三月一五日分)及び未払退職金の合計九二一八万一九八四円の労働債権を執行債権として、前記預金債権につき、新潟地方裁判所に対し、仮差押えの申立てをし(同庁平成一一年(ヨ)第七〇号)、同裁判所から同年四月六日債権仮差押命令が発令され、同月七日第三債務者である新井信用金庫に対し、同命令が送達された。
3 新井信用金庫は、右1、2のとおり仮差押えの競合に対し、同月一九日、八一一六万三一〇〇円を新潟地方法務局上越支局に供託し、同月二五日東京地方裁判所に対し、供託書正本を添付して事情届けを提出した。
4 原告は、原告及び原告を当事者に選定した別紙選定者目録<省略>の選定者の赤倉観光ホテルに対する未払給料・未払退職金請求事件(新潟地方裁判所平成一一年(ワ)第二二八号)において、認諾調書を得て、認諾調書記載の請求債権元本九二一八万一九八四円について、前記3の供託により赤倉観光ホテルが国(新潟地方法務局上越支局)に対する八一一六万三一〇〇円の供託金還付請求権に関し、東京地方裁判所に対し、認諾調書を債務名義として債権差押命令の申立てをした(同庁平成一一年(ル)第四六二〇号)。同年四月三〇日、東京地方裁判所から債権差押命令が、同年五月一九日これに対する更正決定が出され、右更正決定は同月二一日に第三債務者国(新潟地方法務局上越支局)に送達された。
国(新潟地方法務局上越支局)は、同月二八日東京地方裁判所に事情届けを提出した。
5 東京地方裁判所は、右差押えの第三債務者への送達により、配当加入遮断効が生じたため、同庁平成一一年(リ)第四五五一号事件として配当を実施し、平成一一年八月三一日、配当期日が開かれ、別紙配当表が作成された。
この配当表の配当は、被告の請求債権と選定者一六六名の請求債権を債権額の割合に応じて按分するものであった。
6 原告(選定当事者)代理人は配当期日に出席し異議を述べた。
7 なお、原告(選定当事者)代理人は、東京裁判所債権配当係に対し、平成一一年八月二〇日、上申書を提出して、強制執行申立時に担保権に基づく強制執行申立ての意思があったこと及び申立てに担保権実行による申立ての意思を含むものであることを説明した(甲三の一ないし三)。
二 原告(選定当事者)の主張
原告及び原告を当事者に選定した別紙選定当事者目録<省略>の選定者の赤倉観光ホテルに対する未払給料及び未払退職金の合計である九二一八万一九八四円(以下「本件債権」という。)は、先取特権の担保権を有し(民法三〇六条二号、商法二九五条一項)、他の債権者に優先するものであり、このことは認諾調書の請求原因記載の内容から明らかであり、配当裁判所もこれを了知していた。
本件は、原告(選定当事者)代理人は、当初から先取特権に基づく差押命令の申立ての意思を有し、また本来そうすべきところ、認諾調書を債務名義として、これに基づく差押命令の申立てをしたものである。前者の申立てをした場合にも先取特権の存在を証する文書として認諾調書が提出されるなど手続の実質には何らの変わりはないのであるから、先取特権の趣旨に鑑み、そのような形式的な違いのみを理由として優先配当を排除すべきではない。
三 被告の主張
1 選定者は赤倉観光ホテルの従業員ではなく、赤倉観光株式会社の従業員である。したがって、選定者は赤倉観光ホテルの債権者ではない。
2 原告代理人が当初から先取特権行使の意思を有していたことは否認する。
第三裁判所の判断
一 先取特権の実行手続においては、先取特権を証する文書を執行裁判所に提出することが必要とされているなど、債務名義に基づく強制執行手続とは別個の手続が法定されており、先取特権の実行が優先弁済を認めるものであることを考慮に入れたとき、先取特権を証する文書が常に認諾調書のみでよいかどうかは議論がありうるところと思われる。
二 このような手続の違いを受けて、先取特権者を有すると主張する者が、手続の難易、他の競合債権者の有無等を考慮しつつ、債務名義を得て強制執行手続において一般債権者として配当(弁済金交付)を受けるか、担保権を実行するかは当該債権者の自由に委ねられている。
三 したがって、先取特権を有すると主張する者が担保権実行の手続を選択しなかった以上、それにより優先弁済を受けられなかった場合には、その結果を甘受すべきは当然である。
なお、原告(選定当事者)は、担保権実行の手続を選択しなかったのは、原告(選定当事者)代理人の過誤によるものであり、そのことは執行裁判所も了知していたから、選定者に優先弁済を認めるべきであると主張するが、請求債権の内容から債権者が先取特権を有すると解される場合でも、これを行使せず、債務名義により強制執行手続をとる場合も想定される以上、執行裁判所がそのような手続をとった債権者に対し、いちいちその真意を尋ねるようなことは、煩瑣に耐えられるものでないばかりか、競合債権者の利益を害することになるのであるから許容されるべきではない。
四 以上から、原告(選定者)の本件請求は理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判官 金子修)
<以下省略>